睡眠時無呼吸症候群 Sleep Apnea Syndrome:SAS
● 小児のいびき・SAS
◆ 小児のいびき・睡眠時無呼吸(OSA)
― 成長発達に直結する “見逃したくないサイン” ―
「子どものいびきはよくあること」「様子を見ればそのうち治る」と考えられがちですが、小児の睡眠時無呼吸は、近年、身体面だけでなく行動・学習・顔面の成長にも影響することがわかってきました。
例えば、
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ADHDとの関連性:ADHDのお子さんの約23%にOSAが認められたという報告があり(Ikeue T, Indian J Otolaryngol Head Neck Surg, 2024)、睡眠の質が行動面に影響を及ぼすことが示されています。
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認知・行動発達への影響:OSAは注意力・実行機能にも負の影響があるとされ(Sedky K, Front Pediatr, 2021)、学童期の学習効率に関わります。
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顎の成長との関係:間欠的低酸素が下顎の発育に影響する可能性を示した基礎研究も報告され(東京医科歯科大学, 2024)、小児期のOSAは「成長期の顔面発育」にも無視できない因子と考えられています。
これらの理由から、お子さんのいびきや苦しそうな呼吸が続く場合は、早期のチェックが重要です。
いびきが学校の成績に悪影響!
"Pediatrics" という医学雑誌に掲載された論文で、「いびきなどの睡眠時呼吸障害がある子供は学校の成績が悪い」という結果が出ました。( Otago study shows clear link to worse learning outcomes in child snorers)
分析の概要
この論文では、世界12ヶ国の小中学生男女における睡眠時の呼吸障害の程度とと国語・算数・理科の成績との関係を調べた複数の研究のデータを分析しています。
結果
睡眠時の呼吸障害が見られる子供では国語・算数・理科の成績が平均よりも悪いという結果でした。
<院長コメント>
睡眠時の呼吸障害が見られる子供では睡眠の質が悪いために行動や集中力に問題が生じており、それが学習能力の低下につながっている可能性があります。
いびきの原因として考えられるのは扁桃やアデノイドの肥大・鼻の疾患による鼻呼吸障害・肥満などの問題ですが、もしそのような状態にあるのなら適切な対処が望まれます。

◆ 小児のいびき・睡眠時無呼吸の原因 ◆
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成人のOSAとは異なる特徴
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子どもに多い原因
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①口蓋扁桃肥大/アデノイド肥大
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②鼻呼吸障害(アレルギー・副鼻腔炎)
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③肥満/顎顔面形態の問題
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◆ なぜ “子どものいびき” を放置してはいけないのか◆
成長発達に影響する医学的知見
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ADHDとの関連(Ikeue T, et al. Indian J Otolaryngol Head Neck Surg. 2024.)
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注意力・行動・学習能力への影響(Sedky K, et al. Front Pediatr. 2021.)
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下顎発育への影響(間欠的低酸素)(東京医科歯科大学(TMDU)研究, 2024)
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睡眠の質低下による日中の機嫌・集中力の変化
◆ どんな場合に注意が必要? ◆
「普段はよく眠っているのに、最近急に悪化した」という場合は、急ぎの対応が必要でないケースがほとんどです。
注意すべきなのは、
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毎晩いびきをかく
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息を止める/苦しそうに息をする
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寝相が悪く何度も体位を変える
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口呼吸が多い
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日中ぼーっとする/集中できない
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成長がゆっくり
お子さんの睡眠で気になる点がある場合は、「いつ頃から?」「毎晩か?」「どんなふうに苦しそうか?」を観察し、受診時にお知らせください。
そのうえで「やはり心配」「身体への負担が大きそう」と感じる場合、専門的な評価が必要になります。
◆ 診療の実際 ~診断・検査~ ◆
◎ 診療予約をお取りください
まずは通常の外来診察で状態を確認します。
◎ 問診・視診による評価
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普段の睡眠状態について詳しくお伺いします
(例:いびきは毎晩?寝る姿勢は?寝相は?など) -
鼻・口腔内の診察
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必要に応じて、鼻咽腔ファイバースコープによるアデノイドの確認を行うことがあります。
◎ 睡眠時の動画の持参が有用です
お子さんが寝ている様子を撮影した動画があると、診断の参考になります。
特に、仰向けで眠っている時の胸の動きがわかる動画は状態把握に非常に役立ちます。


左:口蓋扁桃肥大、右:アデノイド肥大
いずれも気道が極端に狭くなっています
◎ 機器を用いた検査
・睡眠中の血中酸素濃度を測定・記録することで、呼吸の安定性・身体への負荷の有無・程度を把握します。
・機器を貸し出しの上ご自宅で測定して頂き、機器返却後数日の解析期間を経て判定します。

小児の睡眠時酸素飽和度モニター検査
腕に装着する機器を用いて、酸素飽和度の変化から身体への悪影響の程度を把握します
◆ 治療 ◆
1.鼻呼吸の確保 → アレルギー・副鼻腔炎がある場合はその治療が最優先
2.手術加療 → 口蓋扁桃摘出術、アデノイド切除術など
3.鼻の治療などを経て、一定期間経過後に再度機器を用いた検査で治療前との比較を行う場合もあります。
軽症~中等度無呼吸の患児には手術?経過観察?
Marcus CL, Moore RH, et al : A randomized trial of adenotonsillectomy for childhood sleep apnea.
N Engl J Med 2013: 368: 2366-2376.
◎ 2013年にアメリカで行われたCHAT(The Childhood Adenotonsillectomy Trial) study
◎ 軽度~中等度睡眠時無呼吸の診断がついた5から9歳の児397人を2つの群に振り分けた
◎ 1群は手術加療の後に経過観察、2群は何もせずに経過観察し、7か月後に評価を行った
◎ 無呼吸の治癒率は 1群 79%、2群 46% であった
<院長コメント>
この研究から言えることは、「やはり手術加療の効果は高い」ということと、同時に「自然治癒が50%弱もある」という相反する事実ですね。
重症例には間違いなく手術加療が勧められますが、軽症~中等度の例には慎重な判断が求められる、と言えます。保護者の方としっかりと相談しなければいけません。

