
花粉・ハラスメント、受けてない!?
― つらい症状の原因と対策 ―
◆ 鼻アレルギー(花粉症を含む)とは? ◆
同じアレルギーでも、気管支に起これば喘息、皮膚に起こればアトピー、鼻に起これば「鼻アレルギー」。
主な症状は「くしゃみ・鼻水・鼻づまり」で、ひどい場合は頭痛や微熱を伴い、風邪と区別がつきにくいこともあります。
刺激で鼻粘膜が傷つき、鼻血が出る場合もあります。
● 花粉症だけじゃない? 原因はさまざま
鼻アレルギーの中で、花粉が原因のものを「花粉症(季節性アレルギー)」と呼びます。
スギ花粉が有名ですが、ヒノキ・イネ・ブタクサなども原因になります。
実は真冬以外のほとんどの季節に、何らかの花粉が飛んでいるのです。
一方で、ホコリ・ダニ・カビ・ペット(犬や猫)などに反応する「通年性アレルギー」もあります。
抗原の割合としては、ダニ(約60%)、花粉(約20%)、カビ(数%)の順に多く、最近はガやゴキブリなどの昆虫も原因となることがわかっています。


左図:正常鼻腔内
右図:アレルギー性鼻炎の鼻腔
(粘膜が腫れて水溶性鼻漏が観察されます)
🔬 原因を知ることが第一歩
鼻アレルギー対策の基本は原因となる物質(抗原)を避けることですが、この対策を有効にとるためには自分のアレルギーの詳しい原因を知っておく必要があります(採血による「特異IgE抗体検査」で原因を特定できます:当院にて実施可)。
例えば、スギの花粉症がある人の60%はヒノキにも、さらに50%以上の人がイネ科の花粉にも反応することがわかっています。そうなると、春先だけ注意していても不充分、ということになってしまうのです。
💊 薬だけに頼らない!日常でできるセルフケア
季節性のアレルギーでは、「予防投与(症状が出る前からの服薬)」も有効です。
薬に頼るだけでなくセルフケアも大切ですので、以下の日常の注意ポイントを参考にして下さい。
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花粉情報をまめにチェックする
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掃除をこまめに行い、室内の湿度を適度に保つ
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ストレスをためず、十分な睡眠をとる
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風邪をひかないように注意する
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お酒・タバコを控えめにする
👃 鼻づまり放置はNG!口呼吸にも注意
鼻づまりが続くと口呼吸になり、のどの炎症や感染を起こしやすくなります。
喘息のある方では発作の引き金にもなるため注意が必要です。
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🔧 治療の選択肢:日帰りでできる粘膜処理術
症状が強い場合には、鼻の粘膜(下鼻甲介)を高周波メスまたは薬剤で処理する日帰り手術を行うことがあります。
くしゃみ・鼻水・鼻づまりの軽減が期待できますが、アレルギー自体が治るわけではありません。
手術時間は10~15分ほどで、局所麻酔のみで可能です。経過により2〜3回の追加処置が必要なこともあります(当院で実施可)。
💡 舌下免疫療法について
スギ花粉・ダニに対する舌下免疫療法という治療法もありますが、当院では実施しておりません。
希望される場合は、対応可能な医療機関にご相談ください。
🌼 まとめ
鼻アレルギーは「慢性的な不快感」だけでなく、集中力の低下や睡眠の質にも影響します。
原因をしっかり調べ、体に合った治療とセルフケアを続けることが大切です。
症状が長引くとき/繰り返すときは、早めのご相談をおすすめします。


口腔アレルギー症候群(OAS)
花粉症の方に多く見られる“食物アレルギー”の一種で、
花粉に含まれるアレルゲンと似た構造をもつ果物や野菜を食べた時に、口の中で症状が出るのが特徴です。
原因となる食物を食べると、
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口の中・唇のかゆみ
-
のどのイガイガ
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唇や口の軽い腫れ
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口内のピリピリ感 などが数分以内に出ます。
多くは軽症ですが、まれに 全身のじんましんや呼吸苦 に至ることもあるため注意が必要です。
◆ 花粉と食物の「交差反応」
口腔アレルギーは、花粉と食物のアレルゲンの“似ている部分”を体が同じものと認識してしまうことで起こります。
代表的な組み合わせがこちらです:
◆ 対処・治療
① 原因の食べ物を「生」で避ける
OASは加熱すると症状が出にくいことが多いです。
(例:生りんごはダメでも、アップルパイは大丈夫)
② 花粉症の治療をする
花粉症が強いほど症状が出やすいため、
抗アレルギー薬・点鼻薬・舌下免疫療法が役立つ場合があります。
③ 症状が強い時の治療
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抗アレルギー薬
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のどの腫れが強い場合は医療機関での治療
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全身症状がある場合は救急受診
◆ 局所性アレルギー性鼻炎 ◆
ー 採血では異常が出ない ー
「くしゃみ・鼻水・鼻づまりがあるのに、アレルギー検査では異常なし」と言われたことはありませんか?
実は、そんな方の中に“局所性アレルギー性鼻炎(local allergic rhinitis:LAR)”というタイプの鼻炎が隠れていることが分かってきました。
🔹 検査で分かるタイプと分からないタイプ
アレルギー性鼻炎は、大きく2つに分けられます。
-
アトピー型アレルギー性鼻炎:
採血でIgE抗体が上昇し、アレルギー反応が確認できるタイプ。 -
非アレルギー性鼻炎:
採血ではアレルギー反応が見られないタイプ。
しかし最近の研究で、この「非アレルギー性鼻炎」の中に、
**血液中ではIgE抗体が検出されないのに、鼻の粘膜で局所的にIgEが作られているタイプ(=局所性アレルギー性鼻炎)**があることが分かってきました。
🔹 症状はふつうのアレルギー性鼻炎と同じ
局所性アレルギー性鼻炎の方は、花粉やホコリなどのアレルゲンにさらされると、
-
くしゃみ
-
水っぽい鼻水
-
鼻づまり
といった典型的なアレルギー性鼻炎の症状が現れます。
つまり「検査では異常なし」でも、実際にはアレルギー反応が起こっているケースがあるのです。
🔹 研究で分かったこと
兵庫医科大学の研究では、
アトピー素因のないマウスでも、アレルゲンを鼻から吸入させ続けると、
1️⃣ 鼻の粘膜だけでIgE抗体が作られ、鼻炎症状が出る
2️⃣ その状態が続くと、やがて全身のアレルギー反応(アトピー型)へ進行し、喘息を合併する
という結果が報告されています。
これは、人間の局所性アレルギー性鼻炎からアトピー型アレルギー性鼻炎、そして喘息へと進行する経過に非常によく似ています。
🔹 まとめ:早めの対応が大切です
局所性アレルギー性鼻炎は、現時点では採血などで確定診断することが難しい疾患です。
それでも、「アレルギーが疑われる症状」がある方は、花粉やホコリなどの原因物質をなるべく避けることが大切です。
症状が長引く、または季節の変わり目に悪化する方は、耳鼻咽喉科で一度相談してみましょう。
早期の対応が、重症化や喘息の予防につながります。
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鼻からつながる空洞部分
(前頭洞、篩骨洞、上顎洞)
これらを副鼻腔といいます


<正常の副鼻腔>
副鼻腔には含気があり黒く写る

<副鼻腔炎 のCT>
右副鼻腔(画像では左)に炎症所見を認める
◆ 慢性副鼻腔炎 ◆
― 長引く鼻づまり・鼻水・嗅覚の低下 ―
「鼻炎」と「副鼻腔炎(ふくびくうえん)」、名前は似ていますが、実は起こっている場所が少し違います。
鼻の中だけで炎症が起きている状態が鼻炎、
炎症が鼻の奥にある「副鼻腔(鼻のまわりの空洞)」まで広がった状態が副鼻腔炎です。
● 副鼻腔炎の種類
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急性副鼻腔炎:かぜなどの感染がきっかけで一時的に炎症が起こるタイプ
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慢性副鼻腔炎:炎症が3か月以上続くもの
「慢性副鼻腔炎」は、昔から「蓄膿症(ちくのうしょう)」と呼ばれてきた病気です。
感冒などの急性炎症が治りきらない場合、程度にかかわらず炎症が長期間持続した場合などに起こります。
● 主な症状
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鼻づまり
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粘り気のある鼻汁(黄~緑色のことも)
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においが分かりにくい
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鼻水がのどにまわる(後鼻漏)
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頭が重い、頬のあたりの痛み
これらの症状が数週間以上続く場合は、慢性副鼻腔炎の可能性があります。
● 原因・発症のきっかけ
風邪(ウイルス感染)やアレルギー性鼻炎などがきっかけで、副鼻腔の通り道(自然口)がふさがり、膿や粘液が溜まって炎症が続いてしまいます。
また、以下のような方は慢性化しやすい傾向があります。
-
アレルギー性鼻炎がある
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鼻中隔湾曲症(鼻の仕切りが曲がっている)
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喫煙習慣がある
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花粉やほこりなどに長期的にさらされている
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鼻ポリープ(鼻茸)がある
● 治療について
基本は**保存的治療(手術をしない治療)**が中心です。
薬物療法
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抗菌薬(マクロライド系を少量・長期間使用することも)
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抗炎症薬・粘液をさらさらにする薬
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点鼻薬(ステロイドスプレーなど)
処置
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鼻の中の洗浄
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吸引による鼻汁除去
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ネブライザー(霧状の薬で炎症を抑える)
手術(内視鏡下副鼻腔手術:ESS)
保存的治療で改善しない場合、
副鼻腔の通りを広げて換気・排膿を改善する内視鏡手術が選択肢となります。
日常生活での工夫
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鼻うがいで鼻の通りを清潔に保つ
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部屋の加湿(乾燥は炎症を悪化させます)
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アレルギーの管理(花粉やダニ対策)
-
禁煙・睡眠・栄養など、全身の健康を整えることも重要です
合わせて読みたい ⇒ 鼻うがいのメリット・デメリットを耳鼻科医目線で解説します
●まとめ
慢性副鼻腔炎は、鼻づまりやにおいの低下などが長く続く病気です。
放置すると嗅覚障害や睡眠の質の低下にもつながります。
「風邪が治っても鼻がスッキリしない」「においがわからない」と感じたら、
早めに耳鼻科での診察を受けましょう。
ー 上顎癌(じょうがくがん)ー
— 副鼻腔にできる代表的な悪性腫瘍 —
鼻の奥には「副鼻腔」と呼ばれる空洞がいくつかありますが、その中でも上顎洞(じょうがくどう)と呼ばれる頬の裏側に位置する空洞に、まれに上顎癌が発生します。
● 主な症状
上顎癌は進行するまで気づきにくいことがあり、次のような症状が徐々に出てきます。
● 鼻づまり・鼻出血(片側だけ)
● 頬部(片側)の痛み・腫れ、しびれ
● 血の混じった涙・目の周囲の腫れ
● 上の奥歯の痛みや歯が浮く感じ
● 膿のような鼻汁が続く
症状はいずれも “片側だけ” に起こるのが特徴 で、長く続く場合は注意が必要です。
一般的な副鼻腔炎と似ていますが、治療に反応しない片側の症状は、精密検査を考えるサインになります。
● 原因・背景
明確な原因は特定されていませんが、以下が発症に関与すると言われます。
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喫煙
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職業性粉じん(木工、革産業など)
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慢性の副鼻腔炎
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人によっては遺伝・体質的な要素も
● 診断
上顎癌が疑われる場合、以下のような検査を行います。
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内視鏡検査(鼻の奥の状況を確認)
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CT / MRI(周囲の浸潤を評価)
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組織検査(生検) … 最終診断に必須
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必要に応じて PET などの画像検査
● 治療
治療は病期により異なりますが、一般的には以下の組み合わせです。
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手術(腫瘍切除)
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放射線治療
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抗がん剤(併用されることも)
早期ほど治療選択肢が広がり、機能や形態をできるだけ温存しやすくなります。
● 受診のタイミングについて
片側だけの鼻づまり・鼻血、頬の痛み・しびれなどは、単なる副鼻腔炎ではない可能性があります。
**「片側だけ」「治りにくい」「症状が徐々に強くなる」**という場合は、早めに耳鼻科での検査をお勧めします。

副鼻腔炎のCTと比べても、その違いは歴然。
頬の外側および眼の中まで腫瘍が進展しています(矢印部)。
鼻の中にも進展し、鼻血の原因になります。


