ダイビングを楽しみたい人へ
耳鼻科領域は、スキューバダイビングのトラブルと密接に関わっています。
特に以下のような症状・不安がある方は、潜水前・潜水後を問わず、受診をおすすめします。
◆ 対応している主な内容
-
耳抜きが苦手・途中から抜けなくなる
-
潜水後の耳痛・聞こえにくさ・耳鳴り
-
鼻閉(アレルギー、副鼻腔炎)による圧平衡の問題
-
反復する中耳炎後の潜水許可判断
-
逆圧性中耳炎(リバースブロック)
当院では、耳鏡・ティンパノメトリー・聴力検査・鼻咽腔ファイバーなどを用いて「耳管機能」や「中耳の状態」を総合的にチェックし、安全に潜れる状態かどうか医学的に判断します。
◆スキューバダイビングと耳の関係
◆ダイビング前に耳鼻科受診をおすすめする方
◆ダイビング前の注意点
◆ダイビング時の耳のトラブルと原因
◆よくあるトラブル
◆耳抜きが難しくなる条件
◆ダイビングと薬の注意点
◆スキューバダイビングと耳の関係
ダイビングは、水圧の変化に体が適応しなければならないスポーツです。
特に「耳」や「鼻」は気圧変化の影響を受けやすく、耳抜きがうまくできないとトラブルを起こすことがあります。
当院では、ダイビング経験のある耳鼻科医が、耳や鼻のトラブルを防ぐためのアドバイス・診察を行っています。
◆ダイビング前に耳鼻科受診をおすすめする方
最新の潜水医学ガイド (SPUMS 2025) でも、潜水前の 耳・鼓膜の評価、耳管機能検査 を含めた健康診断を強く推奨しています。
以下のような症状・既往がある方は、潜水前に耳鼻科でのチェックをおすすめします。
1.耳鼻科疾患(慢性中耳炎・滲出性中耳炎・アレルギー性鼻炎・慢性副鼻腔炎など)の既往がある
・ 小さい頃、耳鼻科に通っていた記憶がある人も
2.耳鼻科疾患の有無は不明だが、耳の調子がよくない
・ 聞こえにくい
・ 塞がった感じがする
・ よく痒くなる
・ 左右の耳の感じが何となく違う
・ 高い所に行った時・飛行機に乗った時などに耳が"ポーン"となる、もしくは痛くなったことがある
3.耳鼻科疾患の有無は不明だが、鼻の調子がよくない
・ 鼻の通りが悪い
・ 口を閉じて鼻だけで3分以上呼吸ができない
・ 片側ずつ呼吸してみた際に、左右で通り方が違う
・ 鼻水・くしゃみなどがよく出る
・ 鼻が奥にたまってかみきれない/鼻がのどに下りる
・ 鼻をすする癖がある
◆ダイビング前の注意点
1.体調の悪い時には潜らない
・ 風邪をひいている
・ 寝不足だ
・ 疲れがたまっている
2.ダイビングの前夜・当日は飲酒しない
・ 過度の飲酒は二日酔いの原因になります
・ 二日酔いでなくても、飲酒の影響が残ります
3.エアコンをつけたまま寝ない
・ 窓を開けたままもダメ
![]() |
|---|
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
◆ダイビング時の耳のトラブルと原因
水深が10m増えるごとに、外から耳にかかる圧力は1気圧ずつ増加します。
このとき中耳の圧がうまく調節できないと「耳抜き」ができずに痛みや損傷を起こすことがあるので、これらの圧外傷を避けるためには、中耳と外界(外耳道側)の圧を常に同等にしておく必要があります。
● 潜降時
-
鼓膜が内側に押される
-
耳抜き(バルサルバ法:鼻をつまんでイキむ手技:)で中耳腔内に空気を送ることで圧を調整
<詳しく説明>
潜水降下(潜降)の際には、体に高い外圧(絶対圧=水圧+気圧)がかかり、体内に存在する肺・中耳・副鼻腔などの空洞の空気を圧縮させます。それが原因で、外側から空洞へと力の加わる圧外傷が発生しうるのです。
1)外界(外耳道側)から圧がかかる
2)鼓膜が中耳側に押される
3)中耳腔(鼓室)内の圧が高くなる
そこで、鼓室内の高くなった圧を耳管(鼓室と鼻をつないでいる管)を通じて鼻の方へ抜く動作が必要になります(耳の解剖図参照)。この時にダイバーは顎を動かしたり、唾を飲んだり、鼻をつまんでイキむ手技(バルサルバ手技)をとるのです。これらの動作全体を指して「耳抜き」といいます。
● 浮上時
-
中耳腔の空気が膨張し、鼓膜を外側に押す
-
唾を飲み込むなど自然な動作で圧を抜く(強いバルサルバは禁止)
<詳しく説明>
一方、浮上の際には、これらの空気は膨張するため、潜降の時とは逆に空洞から外側へと力の加わる圧外傷が発生しうるのです。 最も頻繁に生じる圧外傷は、中耳の気圧の調節不全が原因で起こる鼓膜損傷と内耳障害です。
今度は、潜降の時とは逆にこのような状態になります。
1)浮上によって鼓室内の空気が膨張する
2)中耳(鼓室)内の圧が高くなる
3)鼓膜が外耳道側に押される
そこで、潜降の時と同じように、鼓室内の高くなった圧を耳管を通じて鼻の方へ抜く動作が必要になります。そのために唾を飲み込む動作を行い圧の調節をします。



◆よくあるトラブル
耳抜きが全くできないままで潜降すると、水圧によって鼓膜が中耳腔の方へ強く押されて耳痛を生じます。痛みを我慢してさらに深く潜降すると、水深3mで鼓膜は水圧に耐えられず穿孔(破れて穴があく)または裂傷(傷がつく)を生じます。
鼓膜が損傷を受けると、海水などの体温よりも温度の低い水が中耳腔に入るため、内耳が刺激されて温度眼振(めまい)を起こすこともあります。
● 潜水性中耳炎
耳抜きがうまくできないと、鼓膜の穿孔・裂傷を起こさなくても、潜水性中耳炎を起こすことが多いです。
耳抜きがうまくできないまま潜降を続けると中耳腔内に体液がたまって「耳がつまる」「聞こえにくい」などの症状が起こり、治療が必要になることもあります。
● リバースブロック/サイナススクイーズ
浮上時に中耳内/副鼻腔内の空気が抜けず、耳痛やめまい/眉間や後頭部の痛み・鼻血などを起こす状態をリバースブロック/サイナススクイーズと言います。
無理な耳抜きや耳管の腫れ/鼻・副鼻腔の炎症などが原因になります。
<さらに詳しく>
めまいは潜水中に生じる最も危険なもので、ダイバーは水中でバランスを失い、方向感覚を喪失します。その結果、浮上しようにも水面の方向がわからなくなり、さらに嘔気が強くなり、嘔吐することもあります。このような状況下では、初心者でなくてもパニックにおちいり易く、あわてて浮上して潜水病(減圧症)になることもあります。
● 減圧症(潜水病)
浮上時に血液中の窒素が気泡化し、関節痛・めまい・しびれ・呼吸困難などを起こします。
内耳に発症すると強いめまいや難聴を伴います。
発症時は早期の酸素吸入・再圧治療が必要です(当院では減圧症への治療対応はできません)。
<さらに詳しく>
浮上時に圧力が下がると、組織から血液中に窒素が戻り、肺から放出されます。このとき、多量の窒素がとけ込んでいたり、急激に圧力が下がると窒素は血管の中で気泡化してしまい、気泡が大きくて血管を詰まらせると減圧症を発症します。ダイブテーブルやダイビングコンピューターで十分な無減圧時間内であり、ゆっくり浮上し、安全停止をすれば滅多に起きません。
減圧症の症状は窒素の気泡が出来た場所ごとに異なり、筋肉や関節は針で刺したような痛み、肺は呼吸困難やチアノーゼ、心臓は胸痛、脳脊髄は麻痺、呼吸困難や停止、意識障害など、内耳は激しいめまい、難聴、耳鳴りです。内耳型以外は死亡することもあります。治療は発症直後の純酸素吸入が特に有効で、必要があれば出来るだけ早く再圧チャンバーに入ることが必要です。
減圧症のなりやすさはかなり個人差や体調といった要因が大きく、簡単には判断できませんが、リスクとしていくつか知られているものがあります。急浮上、30mを越える深く長い潜水、下痢や寝不足などの体調不良、潜水前後のアルコールや激しい運動、寒冷、肥満、潜水後の熱いシャワーや入浴、潜水後24時間以内の飛行機搭乗や山越えなどです。これらの要因を控え、余裕を持った控えめの潜水を心がけることです。





◆耳抜きが難しくなる条件
-
アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎などの持病
-
風邪、寝不足、飲酒、体調不良
-
連日のダイビング、複数本の潜水
"ダイバーの3人に1人が常に耳抜きが困難である"という分析結果もあるほどです。これらの耳抜きがうまくできないダイバーに、基礎疾患としてアレルギー性鼻炎を持っている割合が高いこともわかっています。
<さらに詳しく>
耳管機能を悪化させる主な原因としては以下のものがあげられます。
1)耳鼻科疾患 ・・・・・・ 慢性中耳炎・滲出性中耳炎・アレルギー性鼻炎・慢性副鼻腔炎など
2)身体の状態 ・・・・・・ 風邪などの急性炎症性疾患、寝不足、飲酒、不適切な薬剤の使用など
3)その他 ・・・・・・ 複数本の潜水など
耳管機能不全に関連すると考えられる耳鼻科領域の疾患に対しては、日頃から積極的な治療をするのが望ましいですね。
◆ダイビングと薬の注意点
本来は、基礎疾患が全くない健康な状態の方のみがダイビングに適している、と言えます。もちろん、心肺機能に異常がある方はダイビングを禁止すべきです。しかし、基礎疾患を有している場合で、薬物を普段から使用している場合でも、その疾患が十分にコントロールできていればダイビングは可能です。
● ダイビングに適さない薬
一般的に、ダイビング直前に中枢神経系(脳)に直接作用する薬を服用することは危険を招く確率を高くします。典型的な例は精神安定剤や風邪薬であり、水中での判断力低下を起こし、アクシデントにつながることがあります。アレルギー性疾患に用いる抗アレルギー薬にも副作用として眠気があり、服用にあたっては、医師の指導を必ず受けて下さい。
● ダイビングにも適した薬
ダイビングは危険なスポーツなので、安易な投薬は事故を招くきっかけとなりかねません。薬を使用する時は、医師の指導を受ける必要があります。普段から継続的に薬を服用している人は、ダイビングの前に主治医に安全かどうかの確認を取りましょう。








