睡眠時無呼吸症候群 Sleep Apnea Syndrome:SAS
● SASの治療・対処
・鼻呼吸コントロール
・手術加療
・CPAP
・マウスピース
・その他の対処法
0.鼻呼吸コントロール
どの治療法を選択する場合でも、基本となるのは鼻呼吸コントロールです。
アレルギー性鼻炎(花粉症)。副鼻腔炎などの既往がある方はもちろん、自覚症状が無い場合でも知らぬ間に鼻呼吸が不十分なケースが圧倒的に多い事実があります。
まずは睡眠中の鼻呼吸を確保できる状況を作るのが大前提となります!
1.手術加療
・鼻閉に対する下鼻甲介切除術・鼻中隔弯曲矯正術
・咽頭レベルの気道を広げる手術(咽頭形成術・扁桃摘出術)
などで狭くなっている気道を拡大します。
ただし、いびき症(無呼吸の要素が無いもしくは軽微な場合)は積極的な手術適応にはなりません。
<鼻の手術>
慢性肥厚性鼻炎に対する高周波メス手術(現在、当院では行っておりません)

手術前

手術直後

手術2カ月後
*鼻中隔が弯曲している人の場合、手術の効果が減弱することがあります
ー いびきや睡眠無呼吸の治療のために手術を行う場合、次のことをご理解下さい -
・ 他の治療をするにしても、まずは鼻呼吸ができていなければいけません(例えば、のどの手術だけをしても鼻呼吸ができていなければいつまでたっても口を開けて眠らなければなりません。見かけ上いびきは小さくなっても安定した睡眠ができず、身体への悪影響は改善されません)
・ この手術の目的は、本来、人が必要とする生理的な呼吸様式(呼吸全体の8割を鼻からできるのが正常な状態です)を取り戻すことであり、いびきや無呼吸そのものを軽減・消失させることではありません
・ もちろん、結果としていびきや無呼吸が改善することもありますが、多くのいびき・睡眠時無呼吸の患者さんは鼻以外にも気道が狭い要素を持っているので、並行してそちらへの対処が必要となります(のどの手術、マウスピース、CPAPなど)
<のどの手術>
いびき・睡眠時無呼吸に対する咽頭形成術
(現在、当院では行っておりません)

適応:いびき・睡眠時無呼吸の症例で、気道狭窄の責任部位が咽頭レベルにある場合
手術によって、いびきおよび睡眠時無呼吸の改善が期待できる場合
Q 手術で「いびき」を治したいのですが?
A おなじ「いびき」にも、「生理的な(正常範囲内の)いびき」と「病的な(治療を要する)いびき」があります。当院で対処するのは後者の「病的ないびき」であり、手術適応になるのはその中で手術効果が期待できる症例に限られます。検査後の最終判断で手術効果が期待しにくいと判断した場合は別の治療法をご提案することになりますので、ご理解願います。
2. CPAP(nasal continuous positive airway pressure:n-CPAP)
n-CPAPは、鼻にマスクを装着して空気を送り込み、睡眠中に上気道がつぶれてしまうのを防ぐ治療法です。
現在もっとも効果が高いとされる標準治療で、無呼吸・いびきの改善が期待できます。
ただし、鼻呼吸が十分にできない場合は効果が半減します。
鼻づまりが強い方は、導入前に鼻炎治療などで鼻呼吸を整えることが大切です。
● CPAP治療のしくみ
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「CPAP本体」→「ホース」→「鼻マスク」を接続し、ベルトで頭部に軽く固定します。
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本体はベッドサイドに置き、ホースが頭の上からくるように調整すると、寝返りの際にマスクがずれにくく快適です。
● データ管理
本体側面にはSDカードが挿入されており、
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使用時間
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気道圧の履歴
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マスクのフィット状況 などのデータが自動で記録されます。
最近では、オンラインで使用データを管理できるシステムも普及し、より細かいフォローが可能になっています。


PHILIPSサイトより

<CPAPの原理>
・ 無呼吸状態では、軟口蓋・舌根部の気道閉塞が起こります(左図)。
・ CPAPは、鼻に装着したマスクから陽圧の空気を送ることによって気道の開存性を確保し、吸気・呼気をスムーズに行えるようにするものです(右図)。
● CPAP治療を受けるにあたって(重要)
n-CPAPは「医療機器レンタル」という形で提供される治療で、保険診療の対象です。
保険の適応を受けるためには、月に1度の定期受診が必須となっています(使用状況を確認し、安全に継続していただくためです)。
1)n-CPAPのメリット・デメリット
【メリット】
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無呼吸やいびきを、健康な人と同等レベルまで改善できる
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脳・心臓・血圧などへの負担を減らし、将来の合併症予防につながる
【デメリット】
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マスクの圧迫感・違和感が出ることがある
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鼻づまりがあると効果が出にくい
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定期的な受診が必要(基本的には毎月、状態が落ち着けば2-3ヵ月毎も可)
2)「使っている間だけ効く治療」です
n-CPAPは、いわば「眼鏡と同じ仕組み」だと考えてください。
使用中は無呼吸を防げますが、外すと元に戻ります。
治る治療ではなく、継続することで効果を維持する治療です。
3)n-CPAPを行う目的
SASが続くと、
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高血圧
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不整脈
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心筋梗塞・脳卒中
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糖代謝の悪化
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昼間の強い眠気による事故リスク など、身体への負担が年単位で蓄積します。
n-CPAP治療は、これらの悪影響を確実に軽減し、長期的な生命予後を改善することを目的に行われます(下図参照)。

図:CPAPによる治療群と未治療群を対比した生存率
治療が必要なレベルの睡眠時無呼吸を放置した群は、治療を行った群に比べて明らかに生存率が低下している。
「中等症以上のSASの人を無治療のまま放置すると、9年後には6割の人しか生存できない(He J , et al. : Chest 94 , 1988 )」
3. 歯科装具(マウスピース)
歯科装具による治療は、身体への負担が比較的少ない方法で、主に 軽度〜中等度の睡眠時無呼吸症候群 に用いられます。
下あごを前方に移動させて固定することで、
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気道のスペースを広げる
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舌や軟口蓋の沈下を防ぐ
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肥満による気道の圧迫を軽減する といった効果があり、呼吸をスムーズにします。
特に、東アジア人に多い **小顎(下あごが後方に位置する骨格)**が原因で気道が狭くなっている場合に有効です。
● 専門性の高い治療です
マウスピースは 誰が作っても良いわけではなく、睡眠時無呼吸に関する知識と経験を持つ歯科医が作成する必要があります。
「下あごを前に出す量」は多ければ良いわけではなく、患者さんごとに最適な位置が異なります。
過度に移動させると顎関節に負担がかかるため、経験豊富な歯科医による調整が不可欠です。
当院では、適応がある方には 信頼できる専門歯科医 をご紹介しています(かかりつけ歯科で対応可能な場合はそちらに紹介状を作成します)。
マウスピース作成後は、装着に慣れたところで終夜の呼吸モニター(簡易検査) を再度行い、効果判定を行います。

● 歯科装具(マウスピース)の適応
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軽度〜中等度の睡眠時無呼吸症候群
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鼻の通気が保たれている(鼻づまりがない)
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顎関節症・顎関節周囲炎などの問題がない
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CPAP治療が合わない、または導入できない
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手術療法を希望しない
利点(メリット)
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小型で持ち運びが容易(旅行・出張でも使用可能)
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手術やCPAPに比べて身体的負担が少ない
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作成は歯型採取と数回の調整で完了
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長期間使い続けやすく、脱落(中止)例が比較的少ない
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●欠点・使用できない場合
以下の方は使用が難しい場合があります。
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歯の治療中(治療終了まで作成できない)
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鼻づまりがある、扁桃肥大が強い
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不眠傾向がある、神経質で装着に適応しにくい
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歯がぐらついている、顎関節に痛み・障害がある
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● 最適な治療法の組み合わせが重要です
睡眠時無呼吸症候群は、骨格、肥満、舌の位置、鼻の通気性など複数の要因が関与します。
症例に応じて、歯科装具・CPAP・生活習慣改善・鼻治療などを組み合わせることが大切です。
◆ その他の対処法 ◆
1.減量
肥満は気道を狭くし、睡眠時無呼吸の悪化につながります。
減量により呼吸障害が改善する可能性があります。
なお、生活習慣病の合併症が最も少ないとされる指標は BMI22 です。
2.睡眠時の体位指導
仰向けでの睡眠は上気道の閉塞を助長し、無呼吸を悪化させます。
横向き(側臥位)で眠る習慣をつけることで、軽症例では改善が期待できます。
3.市販のいびき対策グッズについて
市販のいびき対策製品は多数ありますが、誤った使用は症状を悪化させる可能性があるので注意が必要です。
例:
・鼻閉がある状態で口をテープで固定すると、呼吸障害が増悪することがあります。
・いびきを感知して振動で知らせる装置を常用すると、睡眠が分断され十分な休息が得られなくなることがあります。
自己判断での使用は避け、まずは専門医へご相談ください。
➡ SASとは?
➡ SASの治療効果
